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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第16回:ゲートの運営(その9):事業評価(4)

「市場ニーズの重要性とゲートの役割」

(2012年11月12日)

 

セミナー情報

 

 前回の議論では、期待基準の中の基準項目の内、Customers(市場)の市場の成長性に関し、議論をしました。今回は、同じ市場の中の市場ニーズについて議論をします。

■Customers(市場)<その3>:市場ニーズ

その製品や技術は市場のどのようなニーズを対象としているのかは、重要です。なぜなら、顧客は製品による自分達・自社のニーズの充足に対して価値を認識し、その価値への対価としてコストを負担し、それにより我々の企業はその活動の目的である収益を上げることができるのですからです。

■なぜ「市場」ニーズか?

「顧客」ニーズは重要であるという点に関し、意義を唱えるビジネスパーソンはいないと思います。しかし、ここでは「市場」ニーズが重要となります。ここでは「市場」の部分を強調したいと思います。

生産財の企業では、皆顧客ニーズを重視していると言います。しかし、良く聞いてみると、それは一部の声の大きな顧客、自社の得意客の声であり、その「特定顧客」のニーズを聞いているにすぎません。もちろん、その顧客のニーズが市場を代表しているのであれば、問題はありません。しかし、多くの場合そうではないでしょう。なぜなら他の顧客のニーズを広く聞いていないのですから。消費財においても、きちんと顧客を広く捉えて、市場ニーズに基づき製品展開をしている企業は少ないと思います。

本来製品の展開は、自社の収益(売上と利益)を最大化するために数量を売らなければなりません。その為には多数の顧客の集合体である市場の視点で購入者を捉え、それら多数の顧客に共通的なニーズ、すなわち市場ニーズに対応して製品を展開する必要があります。

■ニーズの重要性の認識と日々の関心の乖離の存在

顧客ニーズであろうと市場ニーズであろうと、ニーズの重要性は自明であるにも関わらず、実際の活動においては本来あるべきレベルほど、関心がもたれていないのが実態です。さまざまなマーケティングの書籍において、本来自明である筈の市場起点の発想の考え方が繰り返し強調され続けてきています。また私が客員教授をしている大学院のマーケティング担当の人気教授は、「寝ても覚めても顧客ニーズ」と毎回の講義で、口をすっぱくなるほど繰り返しています。マーケティングの書籍が売れ、この教授のマーケティング講義が人気があるのは、逆に、実際にニーズに関心がもたれていないことの現われです。

■ニーズの重要性の認識と日々の関心の乖離の理由

それは、なぜこのように市場ニーズ・顧客ニーズの重要性が認識されながら、日々の活動の中ではその点が省みられないのでしょうか?そこには以下の2点の市場ニーズに関わる本質的な理由があるように思えます。

●人間の本能は市場より自社。
人間はニーズの重要性は頭ではわかっていても、自社の収益が最大の関心事であり、企業に勤務する人間としては、収益目標達成に向けてのプレッシャーの中で活動をしていると、どうしても自社起点の発想になってしまうものです。私は、これは人間の動物としてのサバイバルの為の本能でないかと思います。この点を理解することは、組織を市場起点にするためのマネジメントの上で極めて重要です。

●顧客ニーズ・市場ニーズは分かりにくい。
二つ目に、顧客・市場ニーズとは言うものの、ニーズというのは形があるものではありません。また、顧客に聞けばニーズを教えてはくれますが、その時点では価値はありません。競合他社もそのニーズを顧客から聞いているからです。製品開発の基になるのは、顧客がまだ表明していないニーズに基づく必要があります。しかし、多くの場合顧客自身の自分のニーズを明確に認識していないことは多いのです。つまりニーズは顧客ニーズであろうが、市場ニーズであろうが(市場ニーズはより捉え難い)、とらえどころなないのです。

その結果、多くの場合他社製品の真似や顧客が既に表明しているニーズへ対応した製品を展開するという選択をし、結果的に差別性の乏しい製品になってしまうのです。

実際に市場ニーズをつかむための活動については、別途「ステージ」の活動の回で詳細に議論をしたいと思います。

■ステージゲート法の基本コンセプト
ステージゲート法の基本コンセプトに、徹底した顧客・市場起点があります。徹底して市場ニーズに対応していることは、製品開発において絶対的に重要なことであるからです。もちろん重要な要素は他にもあります。しかし、市場ニーズに対応していることは、絶対に譲れない、他の要素では代替のできない、極めて重要な要素なのです。

一方で、上のように、市場ニーズに基づく製品の開発を妨げる「強力な理由」があります。従って、ゲートの評価においては、この点を最重要な評価項目として設定する必要があります。加えて、市場ニーズの需要性をゲートキーパーは反芻し、また経営者は繰返し社員に伝えなければなりません。

■市場ニーズに関わる質問

それではゲートでは、具体的に市場ニーズに関しどのような質問・評価を行えばよいのでしょうか?ゲートで投げかける質問・評価項目としては、

1.対象とする市場ニーズを明確に認識しているか?
この質問は、当該製品の根拠とする市場ニーズを明確に認識しているかという質問です。市場において明確になっているかどうかという意味ではないので、注意が必要です。市場においては、明確になっていない法が良いのです(下の4参照)。

2.その市場ニーズ充足のインパクトは顧客にとって大きいか?
その市場ニーズは、顧客にとって大きな課題解決に向けてのニーズである必要があります。

3.その市場ニーズは継続的か?
その市場ニーズが長い間存在する方が良いのです。

4.その市場ニーズは顕在化しているか?
潜在化しているか?その市場ニーズが既に顕在化していては、競合他社にとっても明確になっていますので、魅力的ではありません。自社は明確に認識していても、市場では明確でない方が良いのです。

5.その市場ニーズが存在すると想定する根拠はあるか?
当該市場ニーズが潜在化していても、勝手な想像だけではいけません。そのような潜在ニーズがあると考える論拠(根拠ではない)は明確である必要があります。

6.その市場ニーズは多くの顧客に共通して存在するか?
上でも触れましたが、一部の声の大きな顧客のニーズであれば、たいした数は売れません。