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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第15回:ゲートの運営(その8):事業評価(3)

「市場の成長性の見方」

(2012年11月5日)

 

セミナー情報

 

 前回の議論では、期待基準の中の基準項目の内、Customers(市場)に関し、特に市場規模に焦点を当てて議論をしました。今回は、同じ市場について引き続き議論をします。

■Customers(市場)<その2>

 市場に関する2つ目の評価項目が、市場の成長性です。市場の成長性が大きければ(成長率が高ければ)、以下の3点の面からその事業は魅力的であると言えます。

●その1:将来大きな市場規模が期待できる。

 現状の市場規模が小さくても、年間の成長率が大きければ、将来の市場規模は大きくなり、それだけその事業は魅力的になります。

●その2:競合企業と限られた市場のパイを食い合う競争がない。

 成長が鈍化している市場では、既に各企業はその減価償却の終わっていない資産(例えば生産設備投資)を持っている中で市場の成長が鈍化するので、固定費を一部でも解消しようと、競合企業間で熾烈な戦いが起こります。結果として価格は下がり、赤字に陥ることもめずらしくはありません。一方、成長市場、特に急成長している市場では、需要が供給を上回る状況が現出し、そのような競争は起こりません。したがって、成長率が高いと、高い利益率を見込むことができます。

●その3:まだ見ぬ補完製品との相乗効果が期待できる。

 製品が市場に投入されると、市場がその製品を使用することで、補完品のニーズが生まれたり、その補完製品メーカーがその成長に触発されて、その(補完品)市場に補完品を持って参入し、新たな市場が創出されるということがあります。例えば、スマートフォーンの市場では、多数のアプリケ-ション企業がこぞって参入しています。もし、自社がその補完製品も取り扱うことができれば、創出された補完市場も自社の対象市場となります。また、補完製品が出現することで、顧客が享受する価値は拡大し、自社の基の製品の市場も刺激を受け活性化し、さらに成長するという好循環が生まれます。

従って、市場の成長性は極めて重要な事業の魅力度の評価基準となります。

■市場の成長性を評価する:成長率vs. 成長ドライバー

 それでは成長性は、どのような指標で評価すれば良いのでしょうか?

 よくある指標は成長率です。しかし、成長率は既存製品の市場でない限り公表データはないのが普通です。また既存製品であっても、信頼できる数値を得ることは困難なケースがあります。また、そもそもその数値が信頼できるデータなのかを判断することも難しいものです。成長率は、公表データにしても、自社が算定するにしても、誤解を恐れずに言えば、あまり信頼性は高くはありません。そのことはゲートキーパーも理解していて、プロジェクトチームが成長率についてプレゼンテーションしても、そのまま理解はしてくれないでしょう。

 それではどの指標を使ったらよいのでしょうか?それは、その製品の成長ドライバーに目を向けることです。つまり市場を成長させている要因は何かを評価するということです。

 例えば、細菌で汚染されている水の浄化装置というアイデアを考えた場合を考えてみましょう。世界中には清潔な水を入手できない人はたくさんいて、その人口は統計的に発表されています。また毎年多くの人たちが不衛生な飲み水が原因で病気に掛かったり死亡したりしています(その統計もあります)。加えて、例えば国連機関であるWHO(世界保健機関)がこの問題についてどのような活動を行っているか、どのような計画があるか、またその進展具合等の分析結果を提示することより、かなり成長性については説得力のある情報をゲートキーパーに提供することができます。このような成長ドライバー(衛生的な水のニーズとWHOのプログラム)があれば、成長はかなり確実に思われます。

■市場の成長率の意味と価値

 ゲート1の評価は、上の成長ドライバーのみを評価すれば良いでしょう。なぜならゲート1は、アイデアをスクリーニングし、次のまだ『初期』段階の調査に進むかどうかを決めるゲートであるからです。ここでの市場成長性に関わる質問は、「市場の成長をドライブする要因があるか?それはどの程度確からしいか?それはどの程度の市場へのインパクトがあるか?」というものとなります。

 しかし、ゲート2以降では、数値としての成長率はやはり必要です。なぜなら、成長率が、5%なのか、10%なのか30%なのかによって、ずいぶん事業の魅力度が変わってくるからです。上の成長ドライバーだけでは、そのあたりの感覚はわかりません。やはり数値で示すことのインパクトは大きいのです。したがって、成長率の算定もしくは外部データを使う場合には、その数値が正しいかの検証を行う必要があります。

 いずれの場合にも、合理的な市場成長率算定のロジックを自分達で作り、前提データを収集・想定し自ら算定することが重要となります。外部データを使う場合も、自社独自で市場成長率を算定し、両者を見比べて成長率を決めてください。