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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第14回:ゲートの運営(その7):事業評価(2)

「市場規模の見方」

(2012年10月29日)

 

セミナー情報

 

 前回の議論では、事業評価の内、絶対基準の話をしました。今回はもう一つの期待基準の議論をしたいと思います。

■期待基準

期待基準は、「Winning at New Products」の中ではShould-be criteriaという英語となっており、すなわち、絶対充足しなければならない基準ではないが、その基準を満たすことができる程良い基準のことを言い、私は期待基準という日本語を当てています。

ステージゲート法は「事業において成功する」プロジェクトを実現することを目的としていますので、評価基準においても「事業において成功する」ための基準でなければなりません。その基準を主に担当するのが、この期待基準です。

それでは「事業において成功する」にはどのような基準を満たしている必要があるのでしょうか?この点については、過去から事業戦略やマーケティングの視点から相当の議論がなされていて、細部においてはいろいろな意見はありますが、基本的にはかなりのコンセンサスがあると思います。基本的にはマーケティングの3C、すなわちCustomers(市場)、Competition(競合)、Company(自社)の考え方に基づく考え方を基本として、その他重要な項目を付加する形が良いと思います。

今回から数回にわたり、Customers(市場)について議論をします。

■Customers(市場)
第一の基準は、「市場」が魅力的であることでしょう。上のようにマーケティングにおいてはCustomer(顧客)となっていますが、単独の顧客ではなく、複数・多数の顧客の集合体である「市場」と捉えることがより重要です。なぜなら、全体の市場が魅力的かが重要であるからです。

それでは市場が魅力的といった場合、どのような要件が満たされていると市場が魅力的と言えるのでしょうか?

■市場規模
一般的には、市場規模が大きい方が良いことになります。この基準は定番で、ほとんどの企業のテーマの評価基準には、この項目が含まれています。私もクライエント企業のステージゲート法の仕組みづくりのお手伝いをする場合、通常この項目を入れます。なぜなら、通常は大きな売上を獲得するには、対象とする市場の規模が大きい方が、小さいことに比べ良いからです。

ただし、この市場規模を基準に含めるには、以下のような注意が必要です。

■市場規模を評価基準とする場合の注意点1:ニッチ戦略を採る場合

定番でありまたもっともらしいという理由で、機械的に市場規模を評価基準に含めないでください。皆さんがご存知の戦略に、ニッチ戦略があります。ニッチ戦略は、敢えて小さな特殊な市場を対象とし、自社が他社にない強みを発揮し、その市場の規模の小ささおよび特殊性(その市場参入のために、わざわざ新たな能力を構築しなければならない)ゆえに、競合企業に参入の意図を持たせないようにし、自社で高いマーケットシェアを獲得し、高い利益率を実現する戦略です。この戦略をとる場合には、市場規模はむしろ小さい方が良いのです。従って、自社のとる基本戦略により、この項目を期待基準に入れるかどうかは変わってきます。

■市場規模を評価基準とする場合の注意点2:市場規模の過大評価

市場規模を算定する上でも、注意が必要です。対象の市場セグメントを明確に定義せずに、自社が対象としない市場を含めて市場規模を算定しては、過大な評価となってしまいます。従って、評価をする前提として、仮にであっても、対象市場セグメントとその定義がきちんと決められていることが前提となります。

実は、この対象とする市場セグメントを決める時点で、すでに評価基準項目が明らかになっています。なぜなら自社が魅力的と考える評価基準により対象市場セグメントを決めるのですから。その(対象市場セグメントを選定する)評価基準の中には、市場規模も入っているでしょう。従って、その基準(市場規模以外の基準項目も含め)とステージゲートのゲートでの評価基準(事業評価の期待基準)とは整合していなければなりません。

■市場規模を評価基準とする場合の注意点3:市場規模の過小評価

一方で、上と同じ理由(対象市場セグメントの選定が適切でない)で、市場規模を過少評価してしまう場合があります。典型的なのは、海外の市場の状況が不明のため、とりあえず国内市場のみを対象としてしまう場合があります。皆さん日々実感している通り、多くの業界において、国内市場のみを対象としていては、今後の長期的な発展は期待できません。海外市場に目を向けることは、企業規模の大小を問わず必須です。対象市場の検討には、海外も含めて考えましょう。

■評価基準は企業により変わるもの

以上より理解いただけると思いますが、自社の戦略により当然のごとく、評価基準は変わるものです。この点は、市場に関する評価基準だけでなく、全ての評価基準にもいえることです。もちろん一般的な評価基準を『参考』にして自社の評価基準を決めることは、良いことですが、十分検討せずに、世の中で一般的であるという理由で、評価基準に含めないでください。明確に自社の戦略やビジョンを反映し、整合した基準としてください。ステージゲート法導入の前提として、自社の戦略やビジョンの評価項目への翻訳の議論をしてください。

この点は自社のステージゲートの仕組みの土台ですので、この点がしっかりしていないと、全体の仕組みをせっかく作ったものの、その正統性が低く使われないということが起こります。ステージゲート法の仕組みを作ることに急ぐあまり、この議論をおざなりにしないよう十分注意してください。