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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第6回:ステージゲート法とは(その4)

今回も、引き続きステージゲート法とは(その4)を議論したいと思います。

■ゲート4:テストへ

既にここまでで、開発は完了しています(製品試作の完成)ので、開発後のゲートは以下の点を評価し、ゴー/キル/差し戻し等の意思決定と次ステージの投入経営資源量を承認します。

○開発(ステージ3)の成果
-ゲート3で設定された活動と計画の達成状況(製品試作の完成度含む)
-新たに収集された情報を含むこれまでに得られた情報の信頼性

○最新情報に基づくプロジェクトの魅力度
-財務リターン
-スコア

○今後の計画
-テスト(ステージ4)の詳細計画(必要経営資源量含む)
-テスト(ステージ4)後の計画

■ゲート4の設計の重要なポイント

ゲート4では通常のゲートでの評価のポイントに加え、ゲート4特有の論点がありますので、以下4点について述べたいと思います。

○前ゲートで計画された到達レベルに達していない場合への対処

ステージ3(開発)では、多くのプロジェクトの中には当然、様々な理由でゲート3(ステージ3の前のゲート)で計画されたスケジュールで、計画された到達レベルに到達していないプロジェクトも存在します。その場合、どう対処したら良いでしょうか?

この場合、開発(ステージ3)の中で複数のマイルストンを設定し、そのマイルストンが一度ならず未達成の場合は、スケジュールの大幅延長、当初の到達レベルの修正、投入経営資源の変更の必要性など重大な問題が発生している可能性がありますので、ゲート4を待たず早い時期にその問題を顕在化し、必要に応じて緊急ゲートミーティングを開催し、対処する必要があります。通常開発期間は相当長く、投資額も多いため、ゲート4まで抜本的な対処を引き延ばし、問題の対処が遅れると、経営的にもその影響が大きいからです。

マイルストンのチェックは、多くの企業が採用しているデザインレビューを利用するのが良いと思います。デザインレビューには、シニアマネジメントであるゲートキーパーは参加する必要はなく、プロセスマネジャーがオブザーバーとして参加し、議論の内容を理解・把握し、問題が大きく、必要と判断されれば、プロジェクトリーダーと相談の上、緊急ゲートミーティングを開催してはどうでしょうか。

緊急ゲートミーティングでは、問題の明確化と対処法を含め、その時点での事実・情報を反映したゲート3での評価に準じた項目を再度評価し、ステージ3での決定が変更されることになります。当然、プロジェクトの中止も含まれます。

従って、ゲート4の段階では、ゲート3で想定した成果が達成されていることを確認するという程度となります。

○ゲート4で評価の対象となる製品試作の水準
ステージ3の成果物である製品試作は、本格的な顧客のフィールドのテストは行われないものの(このテストは次のステージ4の主要な活動として実施)、ステージ3の中で、既に顧客に何度が提示され、フィードバックを得たものである必要があります。また、その段階で、ステージ4で実施するフィールドテスト実施対象顧客も選定されている必要があります。

従って、実際に実環境である程度の期間使用しなれば分からない耐久性、操作性等以外の機能や仕様面の基本的な事項については、かなり顧客による評価が実施されているというレベルであるのが望ましいです。

○製品試作の水準を高めるための活動のリスクの考え方

このような活動を行うことで、開発期間が不必要に延びるという議論もあるかもしれません。また、製品の情報が競合企業に漏れるという懸念もあります。

開発期間の延長については、2つの点を考慮する必要があります。ステージ4で実際に顧客のサイトでフィールドテストを行ってから、問題が顕在化された場合には、ステージ3に戻り開発をやり直すというリスクがあり、結果として上市の時期が遅れる可能性はかなりあります。顧客の意見は変わりやすいものです。また、通常顧客ニーズは、一様ではありません。後から、サプライズがおきないように、顧客の意見(VOC)収集においては、念には念を入れる必要があります。

また、ステージ3における顧客の評価による時間の長期化は、ある程度当初から想定し、スケジュールを立て、事前に周到な準備をしておくこと(評価対象顧客の選定、評価の依頼等)、またこの評価を効率的に実施する方法を採用することで、追加の期間はかなり短縮できます。これは各社のノウハウに属する部分で、効率的に自社や自社製品にあった工夫をすることで、自社の重要な他社に対する差別化能力とすることができます。

競合への新製品情報の漏洩についてですが、顧客という外部に情報が出るのですから、当然守秘義務契約等の対処は必要ですが、いずれにしても情報は競合に漏れることは覚悟しておく必要があります。この問題については、競合に情報が漏れた場合の、競合の反応活動およびその時間軸を想定し、そのインパクトを評価・検討の上実施するということは必要でしょう。避けなければならないのは、競合に情報が漏れるからという、最もらしいが、大雑把な理由だけで、製品の顧客評価をやめるというサラリーマン的発想です。イノベーティブな製品を実現するには、リスクはつきもので、従来の発想に基づく活動では、イノベーティブな製品の実現は不可能と考えるべきです。

○プロジェクトの魅力度評価の精緻度の向上
クーパー教授による「Winning at New Products」におけるステージ3は「開発」という名前が付いていますが、同ステージでは開発以外にも、プロジェクトの魅力度の見極めの活動は積極的に行わなければなりません。従って、ゲート4におけるプロジェクトの魅力度の評価を行うための情報は、ゲート3のレベルに比べ相当精緻化、また計画については具体化している必要があります。例えば、ゲート3のレベルでは、単にいずれかのパートナーと協業を行うというものであったものは、ゲート4ではパートナーの固有名詞が特定できるレベルである必要があります。

つまり、ステージ3の活動は、開発そのものも含め、社内に閉じたものではなく、積極的に上で述べた顧客だけでなく、その他の関係者とのコンタクトを行っていく必要があります。言い換えると、これら活動をできるだけ早い段階で実施すべきということです(ここでもフロントローディング)。どのようなビジネスモデルで展開すべきか?どのようなチャネルを利用して当該製品を販売していくべきか?については、製品が自社にとって新しければ新しい程、最終的な決定に至るまでに、相当の紆余曲折を経ることになりますので、上市の時期を早める(遅らせない)ためにも、早い時期から検討を始める必要があります。製品はできているのに、製品の展開計画が定まらないで、上市の時期が遅れたり、製品以外の部分の検討が不十分なまま上市をするというようなことが無いようにしたいものです。

○生産面の評価
自社にとっての新製品の場合には、既存の生産設備が利用できない場合も多く、生産準備のための期間も長期化し、また生産設備への投資も大規模化する可能性があります。従って、一般には実際の生産プロセスの詳細な検討はステージ4で行うことになりますが(生産プロセス開発自体がプロジェクトテーマで無い場合)、ステージ4を効率的に進めるためにも、ステージ3で生産面の検討も前倒しで進める必要があります。

また生産設備のリードタイムが長く掛かる場合には、ゲート4で一部生産設備の発注を決定する場合もあるかもしれません。その場合、本来ステージ4で実施する生産設備の詳細検討は、ステージ3で行う必要もあるでしょう。

このように、ステージゲートのプロセスは、固定的ではなく、プロジェクトの特性(例えば、生産準備に長期期間が必要となる等)により変更を加えることも必要となり、全体プロセスの早い段階で(例えばゲート3の前の段階)で、当該プロジェクトについてのステージゲートのプロセスをどう変更するかについても検討しておくことが必要となります。