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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第2回:ステージゲート法の課題と対応

■ステージゲート法展開上の課題

ステージゲート法のプロセスは、ステージ(活動)とゲート(活動結果の評価の場と次の活動への関門)という構造を持ち、大変シンプルですが、その運用は必ずしも簡単ではありません。様々な工夫や場合によっては試行錯誤が必要となります。なぜなら、いくつかの重大な課題が存在するからです。以下に典型的な課題とその対応策について述べたいと思います。

●重大な課題1:技術者・研究者の抵抗
ステージゲート法においては、技術者・研究者が事業マインドを持つことが絶対的な前提条件になりますが、技術者・研究者が事業マインドを持ち合わせていないということは多いようです。また、ゲートでの評価に向けての資料作りにもかなりの時間が必要となり、それでなくても多くの仕事を抱え、忙しい人達です。

このような技術者・研究者にとっては、それがステージゲート法であろうが、他の方法であろうが、自分達が経験したことの無いことをしなければならないこと、加えて仕事が増えることに対しては、当然強い抵抗があるのが普通です。無理もありません。今までに、最終的にはあまり効果の無かった、様々な取り組みが社内の管理部門や経営陣の主導で進めてこられたことは事実でしょうから。

この課題については、まずは腹を据えて取り組む強い姿勢を持つことが必要となります。ステージゲート法は「本質的」に正しいマネジメント手法ですので、安心して腹を据えてください。その上で、技術者・研究者の理解を得るために、ステージゲート法について単なるプロセスだけでなく、その思想・哲学から周知する機会を持つことが必要となります。その為に、説明会は必須です。対象は研究開発や技術開発のみならず、関連するマーケティング、販売、生産部門なども対象とします。なぜなら、彼らもステージゲートを推進する上で、正式なメンバーになる場合もあり、また正式メンバーでなくても、プロセス全体にわたり関与する立場になるからです(ステージゲートは単に開発だけでなく、生産、マーケティング、販売も含む活動です)。

さらにステージゲート法の全体のプロセスにわたり、技術者・研究者や他のプロジェクトメンバーを支援する機能が求められます。そのために、プロセスマネジャーと呼ばれる、ステージゲートを推進・支援する黒子の機能を置くのが一般的です。プロセスマネジャーの役割としては、潜在顧客を含め内外の関係者を紹介・仲介したり、適切なアドバイス・資料の提供を行い、またオペレーションレベルから戦略レベルまで、様々なレベル・内容(精神的なバックアップも含め)が含まれます。また、ゲートでのゲートミーティング(ゲートキーパーと呼ばれる評価者が、プロジェクトを評価する会議)の運営も重要な役割です。

加えて、それ以前に、価値の高いプロジェクトに集中して資源投入を行うことで、プロジェクトの数を絞りこむことも重要です(これはまさにゲートの重要なタスク)。そうすることで、技術者・研究者は数多くのプロジェクトに忙殺されず、数少ない魅力度・価値の高いプロジェクトに集中できるようになります。これはステージゲート法の重要な課題でもありますので、独立した課題として、後で議論します。

必ず技術者・研究者の中には意識の高い人たちが存在しますので、このような活動を通じて、彼らがステージゲート法を学び、また会社がステージゲート導入に本気であることを理解する機会を提供すれば、間違いなくステージゲート法の賛同者になってもらえます(なぜなら上でも述べたように、ステージゲート法は「本質的」に正しいマネジメント手法であるからです)。組織の中にそのような技術者・研究者の割合を増やすことで、効率的な組織全体での理解、定着を図ります。

●重大な課題2:評価者(ゲートキーパー)の間でのステージゲート法の理解の不在
評価者(ゲートキーパーと呼ばれます)は経営陣を含め、様々な組織機能を担当する部門の管理者・責任者で構成されます。経営陣を含め、これら評価者間でステージゲート法の理解を深めることは、ステージゲート法を成功させる大前提です。経営陣から不満が出るようであれば、ステージゲート法導入計画は崩壊する危険もあります。これらゲートキーパーの中には、積極なステージゲートの支援者が必要となります(もちろん全員が積極的な支援者となってもらうことが理想ですが、最初からは現実的には難しいでしょう)。

従って、技術者・研究者を対象とした説明会と同様に、評価者説明会を実施する必要があります。このような説明会では、合わせて、ステージゲート法の事業戦略や技術戦略との関係の説明も重要となります。評価者に戦略的な視点が無い場合には、そのような視点を持ってもらうことから始める必要があります。したがって、かなりの時間が掛かりますが、この点はステージゲート導入以前に重要な前提でもありますので、上でも述べましたが、腰を据えて、長期的な取り組みとして推進する姿勢が大事です。

●重大な課題3:アイデアの不在
日本企業の場合、ステージゲート法で1つの前提となっている、多数のアイデアを対象とするということができておらず、この点が課題であると挙げる企業は多いのが実態です。この点に関しては、まず、アイデアは日々の活動の中から自然に湧き出るという前提を一度否定し(最終的には、このような状況に持って行くことを目指しますが)、アイデア創出に「投資」するという姿勢を持つ事が重要と考えます。

その為には、技術者・研究者の一定時間を市場とのコンタクトに費やすことが有効でしょう。まずは、社内の事業部門との関係を密にし、既存の顧客の現場に足を運ぶなど、実際の現場での課題発見を継続的に行うことです。また、既存顧客だけでなく、内外の潜在顧客とも接点を持ち、実際に面会し議論し、現場を訪問する、更には実際に顧客の現場を観察する機会を持つことが有効です。

この点は、アイデアの創出段階だけではなく、ステージゲートの全体のプロセスにおいて極めて重要な活動です。絶えず製品アイデア、製品コンセプト、試作品等を顧客に見せ、検証、進化をさせることが、ステージゲート法の重要なポイントとなっています。アイデアの不在を問題視している企業は、この点もできていない可能性も高く、この点は徹底して強化する必要があります。

この点に関し、私は「打てば響く」を薦めています。打てば響くとは何かというと、顧客は何も無い状態で、「何か困っていませんか?」と聞いても何も返ってこない場合が多いと思います。その場合、とにかく「何か」(つまり仮説)を顧客に提案(鐘を「打つ」)にすると、顧客は何らかの反応(鐘が「響く」)をしてくれるというものです。それをプロセス全体にわたり、「連打」します。この点については、また機会を改めて議論したいと思います。

研究所の研究者は従来の研究開発の活動とは質的にかけ離れた上の活動に取り組むことには最初は躊躇するでしょうが、このような活動は研究開発活動の重要な一部と位置づけ、定着するまでは、強制することを含め、行動を始めることを重視し、成果は長期で考える心構えでの展開が必要です。また、近年注目を集めている、オープンイノベーションも、この延長と考えることができます。

ただし、この点で1つ重要なのは、仮に多数のアイデアを対象とせず、少数のアイデアであっても、ステージゲート法を採用する価値は大きいものがありますので、アイデアがないという理由で、この有効な手法であるステージゲート法導入をやめるという判断をしないようにすることが重要です(アイデア創出の部分は、今後の強化対象として考える)。

●重大な課題4:プロジェクトを中止しない
ゲートでの最大の目的が、そのプロジェクトを次のステージに進めるかどうか、すなわちGoかKillかを決めることです。しかし、これは「言うが易し行うは難し」で、多くの企業がこの点ができておらず、低価値のプロジェクトを延々と続け、それに技術者が忙殺されるという状況に陥っています。

この点に対する対処の方法は、ゲートでの評価項目を明確に定め、評価に基づき厳格に運用すること、また市場の声を広く収集する活動を行うこと(但し、顧客は今までにない製品についての判断はできないこと、また声の大きい顧客の意見が市場全体を代表していなき可能性があることには十分気を付ける)、またプロセスの初期から「事業」の成功という視点を共有し、上市後の展開方法(誰に、何を、どのように)も考え、プロセスの後半ではきちんとした財務分析を行うこと(かつ評価項目中にそれを含める)です。事業の魅力度が(絶対的かつ相対的に)低いプロジェクトは、当然中止にしなければなりません。

加えて、プロジェクトが途中で中止することを、当然の事として受け入れる風土を作ることです。ステージゲート法は、不確実性を積極的に前提としているため、当然プロセスを進めるに従い、実態が見えてくるわけで、結果は例えば想定したような規模の市場が無かったということは「当然」ありえます。また、より価値の高いプロジェクトに集中して経営資源を投入するためにも、「相対的に」価値の低いプロジェクトは、中止しなければなりません。

「当然」起こることに対し、失敗やだめというレッテル貼ることは(プロジェクトおよびプロジェクトチームに対し)、明らかに不適当です。この点誤ったマネジメントを行っている企業が、非常に多いのが実態です。むしろ、アイデアを多数出すために(不確実性が高い状況下では、最初には石か玉かは判断をつけるのが困難ですので、ステージゲートの最初の段階では、質はとりあえず置いておいて、量が必要となります)、結果として中止になってしまうようなプロジェクトを進めることを、許容するどころか、奨励するという姿勢が求められます(3Mの例)。

更に、プロジェクトを中止することは、最初は誰でもいやなものですが、誰かが、つまりゲートキーパーが中止をする役目を負わなければならないという企業経営において本質的なことを認識することが必要です。ゲートキーパーはプロジェクトの中止をしなければなりません!

以上の課題および対応策については、機会を改めてより詳細に議論をしていきます。