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「目からウロコのB2Bマーケティング」

第1回:「マーケティングは企業の中核活動である。」

(2012年1月30日発行)

今回読者の皆さんに、B2Bマーケティングとは、を分かりやすく紹介する目的で、本メルガマを始めることにしました。まず、内容に入る前に、この「目からウロコのB2Bマーケティング」のメルマガを始める背景について説明したいと思います。

■ B2Bマーケティングの現状
まずそもそも、日本の問題として、B2B企業のマーケティング力が決定的に弱いことが挙げられます。これまでの私の経営コンサルティングの経験から認識したことですが、驚かれる人もいるかもしれませんが、B2B企業でその経営者を含めマーケティングを正しく理解している人の数は極めて限られているということがあります。

誤解がないように言っておきますが、日本のB2B企業が決してマーケティングをしていないという意味ではありません。マーケティングの部分はそれなりに工夫をしてやっています。問題は、マーケティングの正しい理解の下その全体像を理解し、体系的に取り組んでいる企業が極めて少ないということです。つまり、その活動の中に改善・改革すべき点が沢山あるということです。

私は、この実態の背景には2つの理由があると思っています。製造業を中心にB2B企業においては、日本の製造業の強みとして「ものづくり」という言葉が頻繁に使用されているように、ものづくり、すなわち技術開発や生産が極端に重視される風潮にあります。また、市場との接点である営業はマーケティングとかけ離れた独自の世界観をつくりあげている例が多いのです。このため、企業の中でマーケティングの必然性が、議論されてこなかったことがあります。またこのような企業単位の問題だけではなく、アカデミアの分野を含め、B2Bマーケティングの全体像や知識体系が明確になっていないこと(これは面白いことに、マーケティング先進国の米国でも、理由は日本とは別のところにあるようですが、同様の状況にあります。)があるように思います。

このような状況の中で現状では、仮にB2Bマーケティングの必要性を認識し、勉強をしようと思っても適当なテキストがありません。B2Bマーケティングの勉強をしようとして書店に行くとマーケティングの本が沢山並んでいますが、その大半がB2Cのマーケティングの本です。仕方なく、B2Cのマーケティングの本を買って読み始めても、「どうもちょっと違うぞ」ということになります。また、B2Bマーケティングの書物は存在しますが、残念ながら私の知る限りいずれもB2Bマーケティングの中の一部のトピックを取り上げてはいるものの、その全体像を捉えてはいないようです。結果として、B2Bマーケティングを勉強する手段が限定されるということになります。

■ 本メルマガの基本方針
今回、以上の背景を受けて、本メルマガの発行に当たり以下を基本方針とします。
1.B2Bマーケティングの全体像を示す。
これまでいずれの書物、資料においても示されていないB2Bマーケティングの全体像を本メルガマの中で示したいと思います。
2.本質的な議論をする。
単なる表層的な企業事例やマーケティング上の流行ではなく、できるだけその背景にある本質の部分にまで掘り下げ、経営や事業の展開の本質との関連の中で議論をすることを心がけていきます。
3.内外の企業事例を数多く提示する。
但し、概念のみの議論では、その本質が伝わりにくいというのも事実です。本メルガマでは、できるだけ内外の事例を数多く紹介すます。

それでは早速本論の議論に入りたいと思います。最初の何回かは「B2Bマーケティングとは?」について議論しますが、その中で今回は「マーケティングとは企業の中核的活動である。」を議論します。

■ 第1回:「マーケティングは企業の中核活動である。」

企業は顧客に対して、ある価値を提供し、その対価を獲得し、その獲得した対価を元手にさらなる価値を顧客に提供するというサイクルを回すことで存続しています。この活動は企業の長期的な存続のための、本質的活動です。これは営利を目的とする企業だけでなく、非営利組織でも同様です。対価を獲得する対象が価値の直接的享受者かそうでないか(政府やフィランソロフィを行う企業等)だけの違いです。

● 「企業の活動は、市場を起点・終点とした価値創出・提供活動である。」

この企業の本質的活動は、大きくは以下の3つの要素から構成されています。
1.市場を起点として、顧客にとって「何が価値あるものであるか?」を見極めること
2.企業においてその価値を実現する手段として、製品やサービスを実現すること
3.それを、終点としての顧客に届ける、具体的には自社の製品・サービスの存在を知らしめ、顧客に購入してもらい、そして価値を実感してもらい、更に次回の購買に結びつけること

● 企業の本質的活動の中でのマーケティングの位置づけ

上の活動の中で1は、全てマーケティングの活動といって良いと思います。他に社内には、1を担う機能はありません。2の製品やサービスを実現するためには、技術開発や生産技術・ノウハウが必要ですが、それ以前に顧客にとって価値のある製品やサービスを企画することが大前提です。どんなに良い技術や生産設備やノウハウを持っていても、元々の提供価値が顧客ニーズに合致していなければ、顧客にとっての価値を生みません。

加えて、マーケティングを考える上で重要な点として、今の時代、顧客が既に欲しいと思っている製品を作ってもあまり儲かりません。なぜなら、早晩、競合企業もその顧客が欲しいと思っているものを製造・販売し競争になるからです。重要なのは、顧客自身が気づいていない顧客ニーズをいち早く拾い上げる、もしくはより踏み込んで顧客ニーズ自体を創出することです。極論すると、既に顧客が欲しいといっている製品を拾い挙げるだけでは、マーケティング活動とは言えません。

2については、マーケティングはその重要な一部の活動を担います。一部とは、1.で認識した顧客にとっての顧客ニーズの中で、自社の製品やサービスで対象とするものを選び、具体的にどのような製品やサービスによりその価値を届けるかを決定することがマーケティング活動です。このマーケティング活動が決定した内容(例えば、製品の仕様)を受けて、開発・設計機能は製品を技術面から開発・設計し、購買機能がその製品を実現する為の原材料や外注サービスを調達し、生産活動がそれらを利用し製品を実現します。

上の3においては、その大半をマーケティング活動が担当します。製品を顧客に物理的に届けるという物流活動を除き(そこにも重要なマーケティング活動が含まれていますが)、その全てがマーケティング活動と言って良いでしょう。営業・販売もマーケティング活動の重要な部分を担います。多くの企業において営業とマーケティングは別組織となっていますが、機能の定義の上では、マーケティングは営業・販売を包含します。例えば、キヤノングループでは、「キヤノンマーケティング」というマーケティングという名前を冠しているグループ企業が、その他製造を司るグループ企業が製造した製品の営業・販売を担当しています。

本活動要素においては、その他の機能として、販売促進があります。B2Bマーケティングにおいては、販売促進には、広告、パブリシティ、展示会への出展、代理店を対象とした販売コンテスト、ショールームでの展示等様々な活動を含みますが、極めて多くの人が、マーケティングとは販売促進であると誤解をしています。販売促進は、ここまで説明したように、マーケティングの活動の一部に過ぎません。この誤解はB2C製品の企業や、日本以外の国においても共通的に見られるようです。

以上のように、マーケティングは3つの企業の本質的活動の中で、2つの要素(上の1と3)の主要な活動であり、残り1つの要素(上の2)においてもその起点となる重要活動であり、マーケティングはまさに企業の中核的な活動であると言うことができます。

● ピーター・ドラッカー曰く…
最近若い人たちの間でも日本ですっかり有名になったピーター・ドラッカーは、マーケティングについて大変興味深い発言をしています。それは、「イノベーションとマーケティングのみが企業価値を生んでいる。」というものです。まさに、技術開発などのイノベーションと市場との接点とその解釈を司るマーケティングのみが、価値を生み出すと言っているのです。

このドラッカーの言葉の後に、「この他の活動は全てコストである。」が続きます。つまり日本で重視されている生産はコストなのです。私は今の日本の製造業の世界市場での相対的な地位の低下の原因は、マーケティングの不在と、その重要な背景の一つと言える偏重した「ものづくり」(もちろんこの概念中には、その一部として技術開発も含まれますが)重視にあると考えていますが、この経営の神様は、この問題を数十年前に看破していたということです。今からでも遅くはありません。ピーター・ドラッカーの主張に沿って、日本のB2B企業の再生をしようではありませんか。

次回も「B2Bマーケティングとは?」の議論を続けたいと思います。